『和声 理論と実習(音楽之友社)』の“ちょっと分かりづらい”箇所を深堀りする記事です。
本日の深堀りは、「Ⅰ1・Ⅳ1・Ⅴ1の標準配置」について。
“ちょっと分かりづらい”のは以下の引用箇所。
第1転回位置では、第3音がバスに置かれている。
一般にⅠ1・Ⅳ1の上3声中には第3音をふくめないのがよい。また、導音重複は禁ぜられるため、Ⅴ1の上3声中には第3音(導音)をふくめることは、当然不可能である。
第6章 3和音の第1転回位置 P49より
セオリー
まずはセオリー通りの配置を各配分ごとに確認していきましょう。
(1)オクターブ配分
上三声(ソプラノ・アルト・テノール)に第3音を含ませないので、例えばⅠ1の場合、上三声がⅰ(ド)もしくはⅴ(ソ)の重音配置になります。また、音域的にⅠ1のオクターブ配分は上記の3種類になります。
(2)開離配分
開離配分ではソプラノとテノールがオクターブより広く離れるので、必然と完全4度(ソとド)もしくは完全5度(ドとソ)の関係になります。
(2)開離配分
密集配分の標準は“隣接した3個の音を選んで上3声に割り当てる”ものです。
しかし、今は第3音を省くので、音は第3音を飛ばしたかたちで密集します。その結果、上3声のどこかで音の重複が発生します。
以上がセオリー通りの配置です。
次から「Ⅰ1・Ⅳ1・Ⅴ1の上3声中には第3音をふくめないのがよい」理由をみていきましょう。
第3音をふくめないのがよい理由
Ⅰ1・Ⅳ1・Ⅴ1の上3声中には第3音をふくめないのには以下の理由があると考えられます。
< 理由>
➀Ⅴ1の第3音は導音(ⅶ)にあたり、重複して使うと悪目立ちする。
②音の響きが固くなる。
➀Ⅴ1の第3音は導音(ⅶ)にあたり、重複して使うと悪目立ちする。
一番分かりやすい理由がこちらです。
導音(ⅶ)は主音(ⅰ)へ向かおうとする力が強い音です。それが根音と上3声で重複してしまうと、導音(ⅶ)の音が浮いたり、悪目立ったりしてしまいます。
決して不快な音ではないので、聴いてみると悪くないと感じるかもしれませんが、上記の譜例の場合、上と下で“シ”の音がしっかりあります。さらに、これがⅤ1→Ⅰの連結だった場合、導音から主音への結びつきがより強くなるので、主音への音の誘導が大げさに感じたり、音の結びつきが安っぽく聴こえてしまいがちです。
②音の響きが固くなる。
次に「音の響きが固くなる」という理由ですが、聴いていただいた方が話が早いと思います。
前半から後半へと移り変わったとき、音の固さが感じられたのではないかと思います。譜例はⅠ1の場合でしたが、Ⅳ1・Ⅴ1でも同様の音の固さが感じられます。
ちなみに、Ⅰ・Ⅳ・Ⅴは主要三和音という調和のとれた和音で、長調においては長三和音(メジャーコード)になっています。その第3音はいずれも根音から長3度(M3)、第3音から第5音からも長3度の関係になっており、調和と音の響きのバランスがよいです。
しかし、第1転回位置において、第3音が根音になることによって基本形の調和と音の響きのバランスが少し崩れてしまいます。ですから、上3声中の第3音を省いてバランスを保とういうのがセオリーなのだと思います。
結論
第1転回位置では、第3音がバスに置かれている。
一般にⅠ1・Ⅳ1の上3声中には第3音をふくめないのがよい。また、導音重複は禁ぜられるため、Ⅴ1の上3声中には第3音(導音)をふくめることは、当然不可能である。
第6章 3和音の第1転回位置 P49より
< 理由>
➀Ⅴ1の第3音は導音(ⅶ)にあたり、重複して使うと悪目立ちする。
②音の響きが固くなる。
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