『Blinding Lights』 楽曲分析・解説



楽曲分析シリーズ!
今回はThe Weekndの『Blinding Lights』です。
楽曲の魅力や構造について解説していきます。


✅ YouTubeに動画解説を上げました。
 是非併せてチェックしてみて下さい!




✅The Weeknd のプロフィールはコチラ



楽曲概要



2019年リリース アルバム『After Hours』収録曲

作曲 : DaHeala,Abel”The Weeknd”Tesfaye,Ahmad Balshe,Jason”DaHeala”Quenneville,Max Martin,Oscar Holter
プロデュース :Max Martin,Oscar Holter,The Weeknd

80年代っぽいレトロな雰囲気を漂わせる楽曲です。
踊りたくなるようなアップテンポでエレクトリックなサウンドが特徴です。




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楽曲分析

原曲Key=Cm(Cマイナー)
※Cナチュラルマイナー
※解釈によってはFm(Fマイナー)が変化したものとも考えられうる。

原曲BPM=166・167くらい

コード進行
 Fm→Cm→E♭→B♭
 (Ⅳ→Ⅰ→Ⅲ→Ⅶ)

コード進行と伴奏、メロディー



まずはコード進行から見ていきましょう。

コード進行


『Blinding Lights』の調(Key)は、Cナチュラルマイナーです。ですから、主音となるC(ド)の音が安定した響きを持ち、他の音からC(ド)へ移ってきた際に落ち着いた印象を与えます。多くはフレーズの頭や終わりに用いられることが多いです。C(ド)から始まる3和音のCmにも同様のことが言えます。


『Blinding Lights』が面白いのは、コード進行がFmで始まっている点です。また、同様にフレーズの始まりや終わりにはF(ファ)の音が置かれていることが多い点も面白いです。

CナチュラルマイナーにおいてF(ファ)の音・Fmのコードはやや不安定なサウンドをもっています。この楽曲のコード進行やフレーズの多くはやや不安定なサウンドで始まりまた終わるため、どこかすっきりとしないミステリアスな雰囲気が漂います



しかし、この楽曲の調(Key)をFナチュラルマイナーが変化したものと捉えると一風変わった面白いことが分かります。

FナチュラルマイナーはCナチュラルマイナーと非常によく似た調(近親調)で、両者はD(レ)の音が♭するかどうかの違いしかありません。

コード進行の中にB♭というコードが出てきますが、これはシ♭・・ファの3音で構成されたコードです。Fナチュラルマイナーではレの音が♭してシ♭・レ♭・ファつまりB♭mというコードが使われるのですが、例外的にB♭が使われていると解釈すれば他のコードは共通なので、強引ですがこの楽曲はFナチュラルマイナーが変化したものと捉えることも出来そうです

しかし、実際聴いてみると自然とFナチュラルマイナーにも聴こえてくるかと思います。それは先述の通りF(ファ)の音・Fmのコードがコード進行やフレーズの多くの始まりや終わりに置かれている点、主音で始まり終わる楽曲が一般的に多く普及している点、Fナチュラルマイナーのコード進行と捉えても違和感が少ない点にその理由があると思います。


さらに、Aメロにおいては音数を減らしコード感を少なくして調整感を薄める工夫がされています。つまり、CナチュラルマイナーにもFナチュラルマイナーにも聴こえてしまうような仕掛けが施されているのです。

さらにさらに、それは主旋律に秘密があり一役を買っているので次の段落でシンセサイザーと歌のメロディーパートをみていきましょう!




メロディー


先述の通り『Blinding Lights』はCナチュラルマイナーであるが、Fナチュラルマイナーにも聴こえてしまう楽曲です。

次はメロディーに着目してすべての音を検証した結果、2つの発見がありました。
フレーズの始まりや終わりにはファの音が置かれていることが多い。
レとラ♭の音が省かれている。

一般的に普及している多くの楽曲は主音(Cナチュラルマイナーだとドの音)で始まったり終わったりすることが多いのですが、『Blinding Lights』は主音の代わりにファの音を置いています。Cナチュラルマイナーにおけるファの音はやや不安定なサウンドを持ちますが、ファで始まり終わるフレーズが連発されることで「これは主音がファの調なのか」と錯覚がおきます。コード進行もFmで始まっているので余計そうさせます。


ここで印象的なシンセサイザーのリフを見てみましょう。


赤丸で囲った音がファの音です。
ずばりファで始まりファで終わるフレーズになっています。

一方、主音であるはずのドの音は次の音に上がるための踏み台かのように扱われていますね。


そしてよくよく見ると、レとラ♭の音が使われていないことが分かります。これはこのリフだけでなく実はメロディーにはほとんどレとラ♭の音が使われていません(厳密に言えば、歌のフェイクで経過音のように一瞬現れることがあります。あとはコード上では両音とも使われています。)


CナチュラルマイナーとFナチュラルマイナーは音の作りがとてもよく似ていて、両者の違いは“レ”と“レ♭”だけです。

ですから、メロディーに“レ”又は“レ♭”の音がないということは、どちらの調とも判別しにくい状態になっています。

もう少し専門的な話をすると、調の判定では導音とよばれる音に着目することが多々あります。導音は主音の半音下の音、つまりドが主音ならシの音です。ナチュラルマイナーの調では、導音にあたる音がないので主音の1音下の音を半音上げて導音から主音への流れをスムーズにさせることがあります。Cナチュラルマイナーならシ♭がシになります。しかし、『Blinding Lights』ではそうはせずCナチュラルマイナーのままの音階で作曲しているため曲中導音がなく導音による調の判定が出来ないのです。Fナチュラルマイナーならと考えても同様です。

言い換えれば、CナチュラルマイナーとFナチュラルマイナー共通の音を使ってメロディーを作っているということです。加えて『Blinding Lights』はさらにラ♭の音を使わないという一風変わった音階にしています

これにより2つの調が合体したなんともミステリアスで味わい深い楽曲に仕上がっている訳です。

全ての話をまとめると、『Blinding Lights』はCナチュラルマイナーだけれども、Fナチュラルマイナーの色合いを前面にだしているよということです。




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聴きどころ


80年代を思わせるレトロなシンセサイザーの音色と踊りたくなるようなアップテンポのビートは、人によっては懐かしく感じることもあるでしょうし、新鮮に感じることもあるでしょう。

The Weeknd自身が80年代の楽曲を好んでいるようで、それならば意図して制作された楽曲なのかもしれませんね。



楽曲分析の項では触れませんでしたが、歌メロディーのリズムの変化に注目してみるのも面白い聴き方です。

Aメロでは4拍子のリズムにきっちりはまっている様子で、Bメロからはシンコペーションといって音の強弱箇所と正規のリズムを崩して音が流れるように歌っています。サビではシンセサイザーのリフを一部変化させたようなメロディアスでリズミカルなフレーズになっています。


『Blinding Lights』はリズムもフレーズもパターンは多くない印象です。音数(音符の数)も決して多くはないので、サウンドやリズムの変化には気づきやすいようにできていると思います。ダンスミュージックに最適な楽曲ですが、耳を凝らして音の変化を楽しんでみるのも面白いです。



余談


2020年には“エアロビチャレンジ”と称して『Blinding Lights』のイントロに合わせてダンスする動画がTikTok中心に大流行しました。

コロナ渦で閉鎖的な生活を強いられたので、こういった流行はちょっとした息抜きになりましたね。


『Blinding Lights』が収録されている『After Hours』というアルバムもコロナ渦でのリリースとなりました。リリース後はビルボードチャートの首位を独走するほどのヒットになり、The Weekndの楽曲が多くの人に元気と活力を与えたんだと思います。

そういった背景もあり、2021年2月7日(現地時間)、第55回スーパーボウルのハーフタイムショーで行われたパフォーマンスは大いに盛り上がりました。公式チャンネルでパフォーマンス全編が公開されているので是非視聴してみてください!





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