Marvin Gayeの『What’s Going On』の楽曲分析・解説記事です。
楽曲の構成や特徴を中心に解説していきます!
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楽曲概要
1971年リリース
作詞・作曲:Al Cleveland,Marvin Gaye,Renaldo Benson
プロデュース:Marvin Gaye
原曲Key=F(Fメジャー)/転調後Key=B♭m(Bフラットマイナー)
原曲BPM=100くらい
「愛のゆくえ」という邦題があり穏やかで優しいサウンドの楽曲ですが、実際はベトナム戦争に対し反戦の想いをかいた楽曲です。
楽曲分析
『What’s Going On』の楽曲分析をするにあたって、特徴的な楽曲の要素を個別にみていきたいと思います!
楽曲の特徴
① 7thコードとメロディー ② 転調とサブドミナントマイナー ③ シンコペーション
①7thコードとメロディー
『What’s Going On』は楽曲を通して7thコードが使われています。
7thコードとは文字通り7番目の音を加えたコードのことで、
ドミソで表すと“ド・ミ・ソ・シ”(左から順に1・3・5・7番目の音)です。
7thコードは明るいサウンドのメジャーコードと暗いサウンドのマイナーコードが合わさって構成されています。ですから、7thコードは明るい響きの中にも陰りがあるような、喜びの中にも憂いがあるようなそんな音色を持っています。
この楽曲からはアーバンな雰囲気を感じると思いますが、それは7thコードの効果によるところが大きいです。
『What’s Going On』はKey=F(Fメジャー)の曲ですが、Fメジャーの音階から本来作りだされるの基本のコードは以下の通りです。
そして、基本のコードそれぞれに7thの音を加えると以下の7thコードになります。
この7thコードが楽曲を通してほとんどの箇所で使われています。
7thコードを多用した楽曲は特別珍しいものではないのですが、そういった楽曲では定石通りコード構成音(FM7ならファ・ラ・ド・ミ、Gm7ならソ・シ♭・レ・ファ等)を中心にメロディーが作られることが一般的です。7thの音(FM7に対してミの音、Gm7に対してファの音等)をアクセントに置いて7thコードの音色を引き立たせることもよくあります。
しかし、『What’s Going On』のメロディーの音選びは少しユニークです。
例えば、歌いだしの以下の箇所はFM7に対し6thの音(レ)が印象的に使われています。
また以下の箇所ではGm7に対し2nd(ラ)・4th(ド)の音が多用されています。これらの音はフレーズの頭の7thの音(ファ)やフレーズ最後のアクセントとなる5thの音(レ)に挟まれるかたちで配置されています。
コードに含まれない音がメロディーが上下行する経過で現れることはよくありますが、このようにアクセントにあたる箇所や印象的な箇所で用いるのはユニークです。
また、こういったメロディーの作り方はユニークであると同時に音取りが難しい(歌いにくい)ものです。伴奏から音を直接拾えないので、伴奏や前後の歌のフレーズから相対的に音をイメージしなくてはならないからです。
②転調とサブドミナントマイナー
『What’s Going On』は転調があるのですが、転調の仕方がまたユニークです。
もともとの調はF(Fメジャー)ですが、転調後はB♭m(Bフラットマイナー)になります。
B♭m調はF調から見るとサブドミナントマイナーの調にあたります。
サブドミナントマイナーとは、調の4番目のコードをマイナーにしたものです。
<Key=Fの基本のコード>
4番目にあたるB♭をマイナーに変換するとB♭mになります。
このB♭mをF調におけるサブドミナントマイナーといいます。
F調におけるB♭というコードはもともとは明るいサウンドをもっていますが、B♭mというマイナーコードに変換されたがため曇ったサウンドになります。
< B♭のサウンド >
< B♭mのサウンド >
サブドミナントマイナーが楽曲にどう影響させるのかを知るために、以下のコード進行をサブドミナントマイナーを使用したものに変化させて確かめてみましょう。
< F調の定番コード進行 >
F調の4番目のコードB♭をサブドミナントマイナーB♭mに変化させます。
< サブドミナントマイナーを使用したコード進行 >
いかがでしょうか。
B♭mにあたる箇所でエモーショナルな雰囲気があったかと思います。
『What’s Going On』はこのサブドミナントマイナーの雰囲気を転調に用いています。
コーラスの後、歌のアドリブのような箇所に入りますがそこでF調からB♭m調へ、さらにB♭m調からF調へと転調を重ねてサブドミナントマイナーの世界を行ったり来たりと不思議な感覚にさせてくれます。
詳しくは割愛しますが、この転調の中でF調へ戻ってきた際に歌のメロディーで3rdのマイナー(ラ♭)というブルーノートが使われています。そのブルーノートは当然F調にはもともとない音でノスタルジックな気分にさせるサウンドを持っています。一方、B♭m調に含まれる音ではあるので、この3rdのマイナー(ラ♭)というブルーノートを使うことでノスタルジックな気分にさせつつ転調をよりスムーズにする効果をもたらます。
③シンコペーション
最後に解説するのがリズムに関することです。
『What’s Going On』の歌パートのリズムの多くはシンコペーションになっているのが特徴的です。
シンコペーションとは本来弱拍となるところが強拍になることを意味します。
『What’s Going On』は4拍子の曲で強拍となるのは“1・2・3・4”とカウントをとった際の“1”と“3”にあたる箇所で弱拍は基本的にそれ以外の箇所です。(“2”と“4”のカウントに重きを置きそちらを強拍とする(オフビート)という見方もあるとは思います。)
本来の拍の強弱を変化させることで独特のリズムが発生します。
「➀7thコードとメロディー」の項でも紹介した箇所を例にとってみましょう。
オレンジの▼が本来の強拍箇所、赤丸が強拍となっている音を示します。
見にくくなってしまいましたが、オレンジの▼と赤丸の箇所がほとんどの箇所でずれていることを表しています。2つが一致するのは頭の4分音符 レの音の箇所のみですね。
こちらは全ての箇所がずれて一致しません。
“2”と“4”のカウントを強拍とするオフビートのリズムの捉え方だと上記の3・4小節目の4分音符 レの音が“2”のカウントと合致しますが、他は強拍の位置がずれています。
上記は一例ですが、『What’s Going On』ではシンコペーションが随所に現れるので意図的に強拍位置をずらし独特のリズムを創り上げていると解釈できます。
ジャズなどでよくあるリズムの作り方ですが、この楽曲からジャジーな印象を受けるのはこういったリズムによる効果がいくらかあるのでしょう。
楽曲の聴きどころ
シンプルでいて聴き親しみやすい楽曲かと思いきや、聴きこんでいくとメロディー・ハーモニー・リズムどれをとってもユニークで音楽的な発見がある楽曲だと分かります。
特に7thコードによるアーバンな雰囲気、コーラス後の転調によるエモーショナルな感じ、リズムによるジャジーな感じなどを歌や伴奏から汲み取れるとよりこの楽曲を楽しめるかと思います。
そして何よりMarvin Gayeの歌は一番の聴きどころだと思います。
あの甘く優しい歌声がこの楽曲に非常にマッチしています。
解説でも紹介しましたが、『What’s Going On』はメロディーの音をとるのが難しくそれでいてリズムも特徴的な楽曲ですので、これをさらっと歌いこなすMarvin Gayeの歌唱力の高さにも注目でしょう。
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