楽曲分析シリーズ!
今回はSiaの『Chandelier』です。
楽曲の魅力や構造について解説していきます。
✅ YouTubeに動画解説を上げました。
是非併せてチェックしてみて下さい!
✅ Siaのプロフィールはコチラ
楽曲概要
2014年リリース 17thシングル
6thアルバム『1000 Forms Of Fear』収録曲
作曲 : Sia Furler,Jesse Shatkin
プロデュース :Jesse Shatkin,Greg Kurstin
『Chandelier』はSiaの楽曲の中で最も有名な楽曲の一つです。
「Dior」のCMに起用され話題にもなりました。
『Chandelier』はSia自身が過去に体験したアルコール・薬物依存症の苦しみについて歌われています。
アルコールや薬物と結び付くフレーズが歌の中にちりばめられていますね。
MVでは当時若干13歳であったMaddie Ziegler(マディー・ジーグラー)のダンスが起用されました。驚くことにあの複雑なダンスは振りが決まっているようで、The Ellen DeGeneres Showに出演した際にはMVと全く同じ振りでダンスを披露していました。
楽曲分析
原曲Key=B♭m(B♭mマイナー)
Piano ver.はKey=Gm(Gマイナー)
原曲BPM=174くらい
Piano ver.はBPM=160くらい
コード進行
Aメロ
B♭m→G♭→A♭→Fm(Ⅰ→Ⅵ→Ⅶ→Ⅴ)
Bメロ
G♭→B♭m→A♭(Ⅵ→Ⅰ→Ⅶ)
サビ
G♭→A♭→D♭onF→G♭(Ⅵ→Ⅶ→Ⅲ→Ⅵ)
コード進行と伴奏、メロディー
全体像を把握するためにコード進行から見ていきましょう。
コードでは、ナチュラルマイナースケールが使われています。
・ナチュラルマイナースケールとは、主音から順に“全・半・全・全・半・全”(※)と並ぶスケールです。
※全:全音、半:半音。ドレミでいうと、“ド・レ・ミ♭・ファ・ソ・ラ♭・シ♭・ド”です。
コード進行
まずはAメロ箇所から。
前半のB♭m→G♭と後半の♭→Dmが対になっているかのような進行です。
コードの構成音で見ると以下のようになります。
(コードは簡略化して表記しています。また、コードを隣同士で表記していますが楽曲内では2小節ごとにコードが変わります。)
赤い丸で囲った箇所は共通した音です。
隣り合った前後半それぞれのコードでは真ん中の二音が共通していますね。
また、ほとんど音の跳躍がないので、全体的に緩やかに下行するコード進行になっています。
フレーズの最後はドミナント機能をもったF(Ⅴ)ではなくFm(Ⅴ)が置かれていますが、これにより穏やかな進行になっています。
マイナー調の楽曲ではⅤ(5番目のコード)を用いる際、Ⅴに含まれる音階の7番目の音(ここではラ♭)を半音上げてⅤのサウンドに緊張感を持たせることがあります。緊張感をもったⅤは安定感をもつⅠ(1番目のコード)へ進むことでサウンドに動きを持たせ“緊張と緩和”を感じさせます。
Fm(Ⅴ)はF(Ⅴ)ほど緊張感をもったコードではありませんが、安定したサウンドをもつB♭m(Ⅰ)への進行は期待させてくれます。
続いて、Bメロのコード進行です。
Aメロの最後Fm(Ⅴ)からBメロの頭G♭(Ⅵ)へ繋がる訳ですが、先述の通りFm(Ⅴ)はB♭m(Ⅰ)への進行を期待させAメロではそれ通りに進行していました。BメロではFm(Ⅴ)→G♭(Ⅵ)と進行が変わるので展開予想を軽く裏切られます。しかし、B♭m(Ⅰ)もG♭(Ⅵ)もサウンドの面で大きく差はありません。
Bメロは最後A♭(Ⅶ)というコードで終わるのですが、このコードは不安定さを持っており、安定したサウンドを持つB♭m(Ⅰ)やG♭(Ⅵ)に進行して不安定さを解消したくなります。『Chandelier』ではその性質を上手く活用して、A♭(Ⅶ)のコードの余韻を少し長めにとり、続くサビの頭G♭(Ⅵ)に進行した際に不安定さを一気に解消させるという手法をとっています。サビのあの開放的なメロディー“I gonna swing~”も手伝って音の展開が非常にドラマチックです。
コード進行ラストパート、サビです。
ここで注目したいポイントは2つあります。
まずは、G♭→A♭の後にD♭onFが置かれている点です。
定番のコード進行に連続する3つのコード順番に並べたⅥ→Ⅶ→Ⅰm、Ⅳ→Ⅴ→Ⅵmというものがあります。高揚感が徐々に高まる中、最後に最高音でありmコードのⅠまたはⅥが来ることで独特の切なさを感じさせるコード進行です。
定番であるがゆえにサビでG♭→A♭(Ⅵ→Ⅶ)とくると、B♭m(Ⅰ)を期待してしまうのですが、『Chandelier』はその期待を裏切ってD♭onF(Ⅲ)のコードを次にもってきています。高揚感が少し高まってきたところでD♭onF(Ⅲ)のコードを挟み一旦クールダウンさせているかのような印象を受けます。これは次にくるフレーズの頭を強調させるためには良い展開だなと感じます。
ちなみに『Chandelier』のコード進行で定番の型G♭→A♭→B♭m(Ⅵ→Ⅶ→Ⅰ)にするとこんな感じになります。
ドラマチックなサウンドに聞こえますね。
コード進行単体だとこちらも良いですね。
そして次にフレーズの始まりと終わりがG♭である点についてです。
フレーズがこのG♭で連結されシームレスになっていますね。こういったコードの使い方は特別珍しくはありませんが、流れるような伸びやかなサビのメロディーラインが良く映えるようになっており面白いです。
さて、続いてはヴォーカルについてみていきましょう。
ヴォーカル
まず先に触れておきたいのは、ヴォーカルはAメロ・Bメロとサビではリズムの感じが大きく異なるという点です。
AメロやBメロでは4拍目が次のフレーズの頭になっていることが多く、前へ突っ込んだ・前のめりになったリズムの取り方になっています。
赤線がフレーズの切れ目、赤矢印が前へ突っ込んだ・前のめりになったリズム箇所
↓Aメロ
↓Bメロ
リズムが前のめりになっているので“窮屈さ”や“破調”の感じあるいは詰め寄った感じが出ています。
一方、サビではこのようになっています。
Aメロ・Bメロと同じようにフレーズの頭が前の小節にかかっているものの、音価が長いためゆったりとしたリズムになっています。メロディーも相まって非常に伸びやかで聴き心地が良い箇所ですね。
Aメロ・Bメロとサビ、このリズムの対比が実に見事ですね!
いずれの場面も歌詞や曲調に非常にマッチしているなと思います。
また、一度聴けば耳に残るサビですが、Siaの魂の籠った歌声がまず印象的です。
そして、何より目を見張るのがその音域です!
D♭5という非常に高い音を地声感の強い歌声で、しかも助走なしにいきなり発声できるのは素晴らしいです。ちなみに前フレーズからD♭5までは1オクターブ余りの跳躍になっています。
『Chandelier』の最高音はF5で、サビの音域はF4~F5(1オクターブ)です。
しかも最高音付近の音を連発するという超高音域な楽曲です。
近年のポップスではヴォーカルでF5が登場する楽曲は特別珍しいということはなくなってきましたが、それでもサビの音域は他曲を圧倒するかのようです。
さらに、Siaの歌声の良さがいかんなく発揮されている点にも注目したいです。
Siaの話声から推測するに、彼女はもともとは特別音域の高い声の持ち主ではなさそうです。となるとD♭5やF5の音を発声するのは決して楽ではないはずです。しかし、見るからに楽々としかも彼女の声の持ち味を損なうことなく歌っているのは彼女の高い歌唱力を裏付けるものではないでしょうか。
ここまで主にコード進行とヴォーカルの要点を解説してきました。
『Chandelier』は楽曲のどの箇所を切り取っても素晴らしいですが、個人的にはやはりサビが主役でサビをドラマチックに引き立たせるためにコードもメロディーもリズムも考えこまれているなと感じました。
何にせよ、何度聴いても色褪せない、胸を打つ名曲ですね。
以上、Siaの『Chandelier』の解説でした。
余談
『Chandelier』はSia自身が体験したアルコール・薬物依存症の苦しみを歌っているというのは有名な話です。
歌詞の中にも“1,2,3 1,2,3 drink(1,2,3杯と飲むの)” “’til I lose count(数えられなくなるまで)”と飲酒のことが出てきたり、サビ出だし“I gonna swing from the chandelier”は直訳すれば“シャンデリアからぶら下がるわ”ですが、シャンデリアから首を吊るというショッキングな内容を連想させるフレーズだったりします。
決して明るく楽しい楽曲ではありませんが、実体験を描きその苦しみを乗り越えたSiaの歌には感動を覚えざるを得ません。
また、前項でSiaの歌唱力について軽く触れましたが、それが分かる動画を見つけましたの紹介します。
James Corden(ジェームズ・コーデン)のYouTubeチャンネルでの出演動画です。
ここでも見事な歌声を披露しました。音程やピッチのブレを感じさせず、修正を加えずともオリジナル音源のクオリティーを披露できるのはすごいです!
車内でマイクを通さず歌っているように見えるのでオートチューン(自動音程修正)は使われていないでしょう。座席に座りシートベルトを着用した状態で多少歌いにくいはずなのに、それすら感じさせないのもすごいですね!
ちなみに話し声も聞けますので是非チェックしてみて下さい。
一般的な女性より特別高い訳ではなく、むしろ低めなトーンが多い印象です。
↓『Chandelier』歌唱箇所は動画1:19~
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