楽曲分析シリーズ!
今回は Alicia Keys の『If I Ain’t Got You』です。
楽曲の魅力や構造について解説していきます。
✅YouTubeにも動画解説を上げました。
是非併せてチェックしてみて下さい!
✅ Alicia Keys のプロフィールはこちらからチェックしてください。
楽曲概要
2004年リリース 6hシングル
作詞・作曲・プロデュース:Alicia Keys
原曲Key=G(Gメジャー)
原曲BPM=120くらい
Aliciaの楽曲としては最も有名なもののひとつです。
冒頭のアルペジオと歌入りからしていっきに引き込まれる楽曲です。
しっとりしたメロディーラインと優しいピアノの旋律が心地よいですね。
楽曲分析
『If I Ain’t Got You』の楽曲分析をするにあたって、特徴的な楽曲の要素を個別にみていきたいと思います!
楽曲の特徴
① 3拍子とスウィング ② 7thコード・トーン ③ 随所に現われる半音進行
①3拍子とスウィング
『If I Ain’t Got You』は3拍子の楽曲です。
3つ打ちで例えば“1・2・3、2・2・3、3・2・3”のようにカウントします。
3拍子はメヌエットやワルツなどの踊りの楽曲に用いられますが、ポップスの楽曲で使用されるケースは少ないです。4拍子と比べるとリズムの強弱をつけやすく、楽曲に躍動感を持たせやすいのが特徴です。
また、この楽曲はスウィングのリズムに基づいています。
スウィングは連続する2音のうち初めの音を長めに、次の音を短めにとるというリズムの種類です。
ジャズやブルースなどの音楽でよく用いられます。
↓一般的なリズムの例
↓スウィングのリズムの例
スウィングの方がリズムに緩急がついて音に動きが出ますね。
『If I Ain’t Got You』は3拍子とスウィングにより心地よいリズムの強弱と躍動感を生み出しています。
スウィングのリズムはベースやドラムスなどのリズム隊が作り上げることが広く一般的ですが、この楽曲においてはどちらかというとヴォーカルのリズムをスウィングさせる傾向が強いです。
以下、楽曲中のスウィング箇所の例。
↓歌い出し 「Some people live for the fortune」
ここでのドラムスは基本の3ビートですが、ヴォーカルはスウィングしてリズムの緩急をつけています。
↓前半パート 「Some people live just to play the game」
スウィングの連続ですね。
ライブでは3小節目「the game」にあたる箇所の直前でためが入り、その後のリズムを崩して歌唱することもあります。
↓コーラス出だし 「Some people want it all」
スウィングしているのは2小節目「want it all」の箇所ですね。
「Some people」の箇所は譜面に起こすとなんてことないですが、実際のヴォーカルはリズムが跳ね気味になっており、続く「want it all」のリズムと相まって非常に心地が良いです。
他にもスウィングしている箇所は多くあります。
是非原曲を聴いてチェックしてみて下さい!
②7thコード・トーン
『If I Ain’t Got You』は楽曲を通して7thコードが多用されているのも特徴です。
7thコードとは文字通り7番目の音を加えたコードのことで、
ドミソで表すと“ド・ミ・ソ・シ”(左から順に1・3・5・7番目の音)です。
7thコードは明るいサウンドのメジャーと暗いサウンドのマイナーのコードが合わさって構成されています。ですから、7thコードは明るい響きの中にも陰りがあるような、喜びの中にも憂いがあるようなそんな音色を持っています。“大人な雰囲気” “アーバンな空気感” “感傷的な気持ち”そういった印象を受けるかもしれません。
『If I Ain’t Got You』はKey=G(Gメジャー)の曲ですが、Gメジャーの音階から本来作りだされるのは以下のコードが基本です。
さらにこれらを7thコードにする(7番目の音を付け加える)と以下のようになります。
楽曲中、上段の基本コードではなくF#m7-5を除くすべての7thコードが使用されています。
また、ピアノや歌のメロディーにて7thの音が強調されている箇所が多く見受けられます。
↓例えば、冒頭のピアノの伴奏
冒頭より7thの音のオンパレードです。
2小節ごとにコードがかわりますが、いずれも構成音は同じで3rh・7th・5thの音が繰り返されています。例えば、1・2小節目はCM7(ドミソシ)というコードですが、ミ=3rd・シ=7th・ソ=5thという音が順に繰り返されています。3小節目以降も音の構成は同じです。
↓前項でも取り上げましたが、コーラス出だし 「Some people want it all」
2小節目「want it all」の箇所が7thの音ですね。
これがもし7thの音でなかったらこのようになります。
今回はルート音に変更してみましたが、音の響きがいっきに明るくなりましたね。。7thの音が奏でる切なさが失われてしまいました。こうなると楽曲の雰囲気ががらりと変わってしまいます
このように7thの音を打ち出すことによって7thコードの味わいをより強く感じることが出来ます。また、7thのサウンドありきのメロディーラインなどは7thの音を除外してしまうと雰囲気が崩れてしまうこともあります。
③随所に現われる半音進行
コード進行についての話ですが、『If I Ain’t Got You』では随所で半音進行が使われています。
前項であげましたが、楽曲で使われているのは以下のコードです(F#m7-5を除く)
これらのコードを組み合わせてコード進行が形成されているのですが、半音進行をするために例外的あるいは臨時的に上記にないコードが使用されています。
↓冒頭のピアノ(歌入り直前部分)
ピアノ演奏の一部を切り取りましたが、ここのコード進行はBm7→Am7となっています。
しかし、2小節目の3拍目(3つ目のかたまり)は“♭”や“♮”の記号が付いて前後とは様子が異なることがお分かりいただけるでしょう。この箇所はコードいうとB♭m7でして、本来この楽曲の調には登場しないコードですが、Bm7とAm7の間にB♭m7が入ることにより前後で半音進行になります。
B♭m7が一瞬しか登場しないので知らなければ聞き飛ばしてしまう箇所かもしれません。しかし、よくよく聴くとハッとする音の掴みと前後の半音進行によるコードワークの滑らかさに気付くことでしょう。
↓ヴァース後半 「Some people live for the power」
なんだかオシャレなサウンドがする箇所ですね。
ここでも半音進行が使われています。
3・4小節目の“♯”や“♮”の記号がついてる箇所が半音進行のために置かれているコードでG♯dim7(Gシャープディミニッシュ7th)といいます。
ここのコード進行はGM7→G♯dim7→Am7です。
オシャレなサウンドだと感じさせてくれるのがG♯dim7の働きです。
dim7は少々複雑なサウンドをしていて扱いが容易でないのですが、このように半音進行の一部として用いられると途端に素敵な音色に聞こえてきます。
これはパッシングディミニッシュという立派な音楽技法のひとつです。
これがもしG♯dim7でなかったら以下のようなサウンドになります。
もはや別物ですね。
明るいサウンドになってしまいました。原曲に聞き馴染みがあると最早気持ちが悪いですね。
このように半音進行が随所で使用されているのもこの楽曲の特徴的な点です。
B♭m7は他にも至る所で使われていますし、G♯dim7は1・2番のヴァースの同じ個所で使われています。さりげなく使われていますので是非耳を凝らして聴いてみて下さい!
楽曲の聴きどころ
リズムやサウンドの特徴的な点は前述の通りですが、他にも個人的に思う『If I Ain’t Got You』の素敵な箇所を紹介したいと思います!
➀前奏の滑らかな下行
→ピアノ前奏がCM7→Bm7→Am7→GM7と順次に下行していきます。CM7がKey=G(Gメジャー)の中では4番目にあたるコードで多少の浮遊感・不安定さのサウンドをもったコードです。それが順に音を下げてゆき安定感のあるGM7へと行きつくのがなんとも心地よいです。
②しっとりとした曲調とリズムの高揚感
→流れるようなコード進行とゆったりとしたメロディーライン、そしてAliciaの心地の良い歌声が素敵だということは言うまでもないですが、そこに3拍子とスウィングのリズムが高揚感を演出していて、しっとりした曲の中にコントラストを生み出しています。
③ライブの魅力
→Aliciaのライブではおなじみのピアノ弾き語りスタイルで披露されますが、ピアノと歌だけでも心地の良いグルーブ感を生み出します。ライブならではのタメやアドリブも魅了されるポイントです。フルバンドではバックコーラスも交えて重厚なサウンドになっておりより感動的な楽曲になっています。YouTubeなどに数多く楽曲がアップされているので是非チェックしてみて下さい!
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